出版の基本的な判断基準


本を出版するにあたって、出版社が一番危惧する点は、社会的な責任問題です。
この点が印刷屋に原稿を印刷製本して欲しいと依頼するのとはまるで別世界
なのです。


その社会的な責任問題とは何だとお気づきですか?
原稿の盗作や盗用の問題から始まります。
著者の提出する原稿について著者以上に詳しい人はいません。
その内容についての創作的な著作部分は著者の人格などに依存するほか出版社の
判断基準はありません。


ですから、原稿を真剣に審査するに従い著者の履歴や社会的な背景などを熟知
しようとなってくるのです。ときどき原稿だけを見て判断してほしいと迫る
相談者がいますが、出版社が一番警戒するケースとなってしまいます。詳細な
履歴書を出せない著者を相手にする出版社というのは私たちの業界からは危なく
て警戒してしまうほどです。


出版社が負担する社会的な責任は、その他にもあります。
出版という行為は新規な情報を社会的に公開するという行為です。
その公開された情報に第三者の利益を不当に侵害する部分があったとき出版社は
権利侵害についての責任追求を受けます。これは故意であるとか不注意であった
などに関わらず、不正な情報が公開されたという事実に起因する結果責任です。
ですから、大手有名な出版社が売上を倍増するにしたがい裁判担当者が増える
実態がこの事実を物語っています。


つまりは、出版するということは大げさでなくマスコミデビューな訳です。
この点が印刷製本した本を作るというプライベートな行為であったり、同人誌に
掲載されるとかミニコミやタウン誌に掲載されるなどとはまったく一線を画した
出版という意味があるのです。社会に提供した情報の責任は出版社が背負うと
いう仕組みが社会的に出来上がっています。


出版社は原稿を通して、出版審査を通して、著者という人間性や社会的な価値を
見ています。そして社会に登場させるべきなのか、まだ時期が早いのかを独自な
判断基準で決めています。


また出版という行為はビジネス的に出版社が著者に投資するという行為そのもの
なのです。一冊の出版で投資した内容が何倍にも返ってくれば、そりゃぁ申し分
ないですが、世の中はそんなに甘くありません。投資をしなければ儲からないの
がビジネスの基礎ですから投資は不可欠なのです。そうすると、投資したものが
確実に増えて返ってくることを考えれば、たとえ今回の出版が大きな利益を
生まなくても、次回、またそのつぎの出版で利益が出せることを当然考えます。


そういった気長いお付き合いができる対象であるのかどうか、また、次第に
プロの著者として成長してもらえる対象であるのかどうかも、たいへん重要な
要素なのです。


さて、ここでも私たちが活躍できるビジネスチャンスがあります。
出版社ごとに異なった判断基準を持っているため私たちのような業界内部の
情報通なら、この原稿が採用される基準を持った出版社を探し出し、この著者
の素養背景が採用される基準を持った交渉ができるのです。